米アウトドアメーカーのパタゴニアが、クオリティーの重要性を改めて訴えている。創業者のイヴォン・シュイナード氏は、23年11月に米紙に「低いクオリティーの高い代償」と題した寄稿文を発表し、「粗末に作られ、すぐに捨てられてしまう安物は、人々と地球の命をむしばんでいる」と強調した。クオリティーを追求する意義とは何か。米ベンチュラの本社を訪ね、経営、アパレル事業、素材開発、社会的責任などの責任者に聞いた。
(杉江潤平)
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ビジネスとの両立、我々が証明
CEO(最高経営責任者) ライアン・ゲラートさん
――クオリティーとは。
イヴォンがクライミングの道具を作っていた時代から大事にしてきた当社の理念です。製品に関わるあらゆる要素の軸に据えており、我々のビジネスや企業風土の中心にあるものです。
――高品質なものを作り、客に長く使ってもらうことは大事だが、新製品を出さないとブランドとして飽きられてしまうのでは。
服を販売する会社として当社がユニークな点は、成長を重視していないことです。製品は、これ以上改善できないところまで作り込めれば、デザインを変えて付加価値を付けることはしません。しかし、カーボンフットプリントの削減やリサイクル素材の採用など、製品をより良いものとする努力は続けています。例えば「ベター・セーター」は何十年も販売している製品ですが、工場の労働基準は細かく精査して作っています。新製品は、今売っているものとは別の、新機能や役割を提供するものがあれば必要に応じて出す、という考え方です。
我々はファッションブランドではありません。年月が経っても古臭くならないデザインに、クオリティーが伴っている製品を作り、それを買われたお客様が修理しながら長く使う。そういうブランドです。
――中古品の買い取り販売とリペア活動の状況は。
リセールビジネスは過去3年で大きく伸び、収益も出ています。いずれは当社ECサイトに新品とともに古着も掲載し、お客様側が両方を見比べ、最終的には購入者が自分の持つパタゴニア製品を同時に売ることもできるようにしたいと思っています。リペアについては年間10万件以上、受けています。
――リペアが広がると新製品を売りづらくなるのでは。
修理と新製品の販売を、経営上の相関関係ではなく、顧客へのコミットメントとしてとらえるべきです。リペアで得られる利益はありませんが、お客様に喜んでいただけるのは確かです。リセールは収益を得て成長しており、結果として新品の販売数が減るならそれでも構いません。
――クオリティーの重要性を訴える理由は。
アパレル産業で服の使い捨てが横行していることを、真剣に話し合って欲しいからです。自動車の購入者は「消費者」ではなく、「オーナー」と呼びますね。高いお金を払えば、その維持のために洗車や整備を当然しますが、服ではそうなっていません。我々は服を買った人にオーナーになってもらいたいのです。
――パタゴニアのように責任ある企業を目指すも、経済的負担を伴うため、追随できない企業は多い。
クオリティーの高い製品を作ることが、企業としての競争力・成長性・収益性を失うわけではないことをパタゴニアが証明しています。
アパレルを含めあらゆる業界の経営者に伝えたいのは、時間経過とともに陳腐化する製品の生産と販売は、製品を修理して長く使う行為の妨げとなり、環境と社会、地球に悪影響を及ぼすということです。ですからそうしたビジネスのやり方は変えるべきです。
ファッションは関係ない
プレジデント ジェナ・ジョンソンさん
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