ファッション業界で働く私たちにとって、かつて正しい道とは「日々、新たなスタイルを考え、生産し、たくさん買ってもらう」こと。これが正義であった。だが、いまやSDGs(持続可能な開発目標)の時代。これまでの「正義」は刻々と崩壊しつつある。そんな時代の狭間で服を扱うことについてあらためて考えてみたい。
(伊藤忠ファッションシステム ifs未来研究所 上席研究員 浅沼小優)
服は単純ではない
ずっと昔、フランス留学がスタートしたばかりのT君が、近所の雑貨屋にティッシュペーパーを買いに出かけた時の話。慣れないフランス語で「ティッシュペーパーありますか」と店の女性に尋ねた。すると、「そんな矛盾した品物、ないよ」と思いもよらぬ塩応対。「ティッシュは布、ペーパーは紙。布の紙なんてものはおいてない」、と。T君がかつてつきつけられた矛盾はただの笑い話だが、私たちが今おかれている状況は笑い話で済まされるものではない。なにしろ数年前までの「正義」が一変してしまったからである。
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