たんすに眠るきものを日常で楽しめるシャツに――仕立て屋と職人(滋賀県長浜市)が23年秋からスタートした「シャナリシャツ」が意欲的な動きを見せている。思い出の詰まったきものを譲り受け、地域の人たちとともに一点物のシャツに生まれ変わらせて販売。これまで数千着を譲り受け、500枚前後のシャツを作ってきた。今秋からは長浜市社会福祉協議会(社協)と連携して計14回のきもの譲渡会に着手。より多くの人からきものを集めるとともに、社会参加が苦手な人にも譲渡会への参加を促し、充実感を味わってもらえる機会にしたい考えだ。
(小畔能貴)
地域の人たちと物作り
同ブランドが打ち出すシャツは、すべて譲渡会で無料で譲り受けたきものを活用している。きものをほどいて、裁断し、だいたい3枚前後の生地を組み合わせて同じデザインのないシャツに仕立て上げる。

中心価格は税込み3万4100円。男女が着られるサイズ展開をしていて、既製品だけでなく、柄やサイズを自分好みにオーダーすることもできる。

物作りは、自社スタッフだけでなく、長浜の様々な人たちと協力して実現している。農業をしている人、介護をしている人、子育てをしている人たちが空き時間を使って縫製を担う。

きものをほどく(分解する)作業についても、25年5月から社協と連携し、デイサービスを利用している人たちに依頼するようになった。「実際に経験者もいる。依頼を通じて社会的な役割を実感し、とても元気になってもらえてうれしい」(ワタナベユカリ共同代表)と振り返る。
譲渡会を通じて一体感
ほどく作業をしている中、ついでにきものを持ってくる人もいたことから、社協と連携して市内の各ステーションできもの譲渡会を共催することが決まった。10月22日に第1回がスタートしたところで、26年5月末まで市内の7カ所で開催する。譲渡会は譲り手一人ひとりからきものにまつわる思い出を聞くなど、コミュニケーションを深める場だ。
社協からの提案で、この場面にひきこもり経験のある人、社会参加が難しい人にも立ち会ってもらうことになった。すでに2人の参加が決まっていて、さらに呼び掛けている。手伝いできる部分から参加してもらう予定で、やりがいや達成感、自信につながることを期待する。「譲渡会はポジティブな要素がたくさんある」とワタナベさんも楽しみにしている。

営業面では、ECで販売しているほか、東京や福岡で積極的に期間限定店も繰り出している。購入者の中にはインバウンドも少なくない。期間限定店で販売だけでなく、きもの譲渡会やショーも実施するなど、様々なアプローチをしている。

