衣服生産プラットフォームを運営するシタテル クラウド活用しダイレクト取引

2020/07/23 06:27 更新


【ものづくり最前線】衣服生産プラットフォームを運営するシタテル クラウド活用しダイレクト取引 リモートワーク対応、業務効率化に

 衣服生産プラットフォーム事業を運営するシタテル(熊本市、河野秀和社長)は、アパレル事業者向けに昨年末からスタートしたクラウドを活用したデジタル衣服管理ツール「シタテルクラウド」を導入する企業が着実に広がっている。同サービスを活用することで、衣服生産の管理や縫製工場とのコミュニケーションをデジタル化することができ、業務の効率化はもちろん、コロナ禍でのリモートワーク対応などが可能となる。「将来的にはサプライチェーン全体のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進することにもつながる」と強調する。

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■生産のリスク分散

 同社のプラットフォーム事業は、服を作りたい人(企業)と作り手(工場など)をデジタル技術によってつなぐことが主な役割。この事業を利用するブランドやデザイナーなど1万6000社が登録し、国内を中心とした1000社の縫製工場・生地メーカーなどと連携している。その機能は繊維商社などのOEM(相手先ブランドによる生産)の機能と同じようなものだという。

 今回のシタテルクラウドは既存のプラットフォーム事業とは全く違うビジネスで、同社のプラットフォームを利用してもらうのではなく、利用者に新たなシステムを提供することで工場など作り手とダイレクトに取引できるようになる。その際、シタテルが連携する約1000社のサプライヤーとも直接取引をすることが可能となり、アパレル事業者にとってのサプライチェーンの分散化にも寄与する。コロナ禍によって、工場を複数拠点化しリスク分散させることの重要性が高まっているなか、新サービスはアパレル事業者の持続可能な事業基盤の構築を支援することにもなる。

 まず開発に当たり、アパレルブランドや繊維商社の生産管理担当者などからヒアリングを徹底し、アパレル業界の課題を浮き彫りにした。①生産管理人員の不足②頻繁にある急な仕様変更③与信が通らず口座が開けない④求められるさらなるコスト低減⑤コミュニケーショントラブル⑥デジタル化が遅れている生産現場。この中の④~⑥の課題解決を目的としたのがクラウドによるダイレクト取引の提供。大手企業を中心にDXが叫ばれているものの、縫製工場ではアナログで属人的な手法のままのところが大半を占めている。

 アパレル業界の実態は、ブランド事業者、縫製工場、資材メーカー、仲介業者など、様々なプレーヤーがひしめく多重構造になっている。それぞれの業務はアナログ的に管理され、属人性が強く、リモートワークや担当者以外の代理対応は難しい状況だ。コミュニケーションの手段も電話、ファクス、メールなどバラバラでトラブルは後を絶たない。「いまだに仕様書やパターンデータを紙のファイルでアナログ管理している大手企業もある」(冨山雄輔シタテルクラウドチームマネージャー)という。仕様書やパターンデータの修正は添付ファイルでやり取りすることが多いため、最新版の見過ごしも目立つ。また、トラブルを避けるために最善の注意を払う事業者ほど確認作業が多くなりがちだ。新サービスではチームで仕事の中身を「見える化」し、仕入れ先や工場との情報共有も可能になる。

シタテルクラウドのイメージ図

■オープンな経済圏

 現状、中小零細企業が大半を占める縫製工場では、事業のデジタル化を推進しようにも新規投資が難しい。また、スタッフの高齢化が進み、デジタルツールを活用できないまま、非効率な状態で 業務を運営し続けているケースが多く見受けられる。新サービスは導入費用がかからないため、システム投資などの莫大な新規投資を行わずに、業務のデジタル化を進めることが可能だ。その他、アパレル事業者が新規取引先の開拓ツールとして同サービスを利用することから、サプライヤーにとっても自社の特性に合致した新規案件の獲得が促進される。アパレルのブランド側から繊維商社、OEM企業、縫製工場までの無駄を省き業務効率化を推進することで各事業者のサステイナビリティー(持続可能性)にもつながる。

新システムによって直接コミュニケーションがとれる縫製工場の生産現場

 昨年12月からのスタートで目標を上回る7社に導入した。シタテルクラウド責任者の鶴征二取締役は「そもそも目標が低いかもしれないが、戦略的に少なく設定した」という。サポート体制を整えシステムバグで迷惑をかけないようにするため、立ち上げから3カ月はあえて拡大しなかった。その後、サポート体制が整ってきたので、新規開拓を再開している。「コロナの影響で苦境に立たされているアパレル事業が多く、リモートワークも増えているため、新サービスへのニーズは大きい」とみている。

 現状は縫製工場とのダイレクト取引が中心だが、今後、大型のアップデートも予定しており、「生地や付属メーカーなど服作りのサプライヤーが一堂に会した自由でオープンなデジタルコミュニケーションによる経済圏を作っていきたい」と将来を展望する。

シンプルで使いやすいシステムなどでスマホでのやり取りも可能

《チェックポイント》新たなバリューチェーンの構築

 「シタテルクラウド」は、新たなバリューチェーンを構築する際、アパレル業務を最適化する新機能が段階的に実装されていく予定だ。今回、提供する機能は「ダイレクト取引」機能で、ブランド事業者と縫製工場などのサプライヤーがシステムを介して直接取引することができる。主な機能としては、アイテムデータと生産スケジュール一元管理がある。クラウド上で全てのデータを管理でき、サプライヤーと常に同じ情報を見ながら生産を進めることができる。アイテムごとのチャット機能では、全ての情報をアイテムとひもづけて管理できるため、品番の認識違いが発生しない。テキストによるコミュニケーションのほか、画像データのやり取りにも適している。スマートフォン対応では、外出先、出張先、自宅など、場所を選ばずに状況の確認や連絡が可能。サプライヤーの拡充では、同社の豊富なサプライヤーネットワークから、新たな縫製工場などへ直接アクセスできる。


《記者メモ》DXへスモールスタートを

 アパレル業界のDXやSCM(サプライチェーンマネジメント)の推進に対し、各社とも課題は共通認識になっているものの、「総論賛成、各論反対」で解決への歩みは遅い。というかほとんど進んでいない。ブランド事業者にとっては目の前で困っている一つひとつの具体的な課題が解決できるかが優先される。個別の成功事例を積み上げていくことでSCMの全体最適につながっていくのだろう。これからはシタテルクラウドのようなスモールスタートが時流になりつつある。縫製工場を含めて業界のDXによってコロナ禍のピンチをチャンスに変えられるタイミングは今なのかもしれない。

(大竹清臣)

(繊研新聞本紙20年6月17日付)

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