店で働く販売員にとって、店長に昇格することは当面の目標。だが、それがゴールというわけではなく、むしろ店長になってから学ぶことも多い。今回は店長として、10年以上のキャリアを持つベテラン2人に長く仕事を続けてきた今だからわかることを聞きました。
「最高のスタッフが売り上げを作る」
ビームスジャパン1階 谷川聖浩ショップマネージャー
「悩むのは仕方ない。でも、物事はなるようにしかならない、と考えることが大事」
「どんな店長を目指すかで、日々やるべき仕事とか満たすべき条件は変わると思う」
「会社から店を任されている以上、一番の仕事は売り上げを作ること」という谷川さん。そのために大事なのがスタッフだ。「最高のスタッフがいる店は売り上げが取れている」。雑貨のフロアで10年以上、店長を務めて得た実感だ。
プレス業務を経て、30歳から店頭に立った。最初から店長に次ぐサブ店長の位置づけだったが、高校時代に服屋でのアルバイト経験もあり、接客など販売の仕事には「3カ月もすれば慣れた」。ところが、半年後に店長格だった同僚が本社へ異動、実質的に店長としての業務をこなすことになった。
店のトップとして仕事が増える中、とりわけ苦手だったのが「スタッフの人事評価」だった。「柄にもない」という気持ちが先に立った。「慣れるしかない」とも考えたが、結局「けなすより、褒めるほうが良い」という結論に至った。どんな小さなことでも良いところを見つけ評価する。
かつては「いかに厳しく評価するか、みたいなところもあったが、10年前と今では若い子の感覚も違う」。良いところを見つけ、そこを突破口に育てたほうが得策だと判断した。けなすより褒める、そしてスタッフの性格を見極め、適度に「イジる」のが谷川流のコミュニケーションだ。
店頭で少しの合間に冗談を交え、言葉を交わす。「下手すると若いスタッフと最大で親子くらい年の差があったりするので。こういうのは大事です」。気楽に話せる空気ができている分、他のフロアや店から「雰囲気良いよね」と言われることも。「厳しくなんか全然してない」そうだが、接し方が甘いわけでもない。
実際、この2年、新たに採用したスタッフの定着率も高く、遅刻、無断欠勤もゼロだ。「雰囲気が良いのは、店の全員の役割分担が絶妙にはまっているから」。サブ店長以下、スタッフ全員との普段のコミュニケーションを通じて適性を見極め、任せられる仕事はすべて任せている。「誰かの異動があっても、このチームワークは維持できると思う」
続けるうち、「店に立つことは大事だと思うようになった」。「ネットで何でも買える時代と言うけれど、画像ではわからないからって店に足を運んでくださるお客様はいる。それって店が存在する意味だし、直接触れて感じ取る、ニーズとか気持ちの変化をわかれないと、モノは売れない」と言う。
谷川さんの今に至るまで
1988年 ビームスでアルバイトを始める
商品の受け渡しや物流などを担当
1990年 プレス業務へ、1年後正社員に
2000年 ビームス・ジャパンの1階でサブ店長
半年後、店長の転勤で実質的なフロア責任者に
2002年 ビームスタイムに転勤同じく1階雑貨フロアへ
2012年 ビームスジャパンに再び異動
現在に至る
「店の可能性は店長の器次第」
ビューティ&ユースユナイテッドアローズ
東京スカイツリータウン・ソラマチ店 吉村信二店長
「でかい壁に当たる前には、小さなつまずきが前触れとしてある。その時点で気付いて対処すること」
「店のスタッフの数が多いほど、目標達成や個々の成長の喜びを実感できるチャンスが増える」
「結局のところ、店は店長の器以上にはならない」と吉村さんは考える。学生時代から志望していたユナイテッドアローズに入社し、販売職に就いてからは「店で働くなら、ひとまず店長になりたい」と思ってきた。7年目に店長となり、その後しばらくの期間は「突っ走っていた」という。
「店に課題があると、解決法を自分でひねり出し、スタッフに『やらせて』いた。でもそれだとあんまり響かなかった」。新人店長が誰しも一度は通る経験だ。「突っ走り」の期間を2年経て、「これでは伝わらない」と思い直し、そこからは「社内研修も真面目に聞くようになったし、自分でマネジメントの本を買い込んでたくさん読んだ」。
人を動かすノウハウを学ぶうち、気付いたことがあった。「やっぱり店頭に立たなきゃわからない」。課題を共有し、スタッフ一人ひとりが解決に取り組むようにしても、理解して動けているか、腑(ふ)に落ちていないか、個人差があるし、それは店での動き方に出てくる。
店頭を見ていれば理解が浅いスタッフも目に付くし、問題に気付けばその度、助言が出来る。「店長のP・D・C・Aというものがあるとしたら、そのうちのC『チェック』は店頭でしか出来ない」。そう思い至ってからは、毎日数時間だったバックルームでの作業を週1回に減らすようになった。
キャリアを積むうち、スタッフとのコミュニケーションは自然に「問いかけるようになった」。予算を達成したスタッフには「何で達成できたか、聞いてみる。すると、スタッフは店頭での動きの意味を自分で考えるようになる」。考えるのが店長ばかりになっては、店として売り上げを作っていくことはできない。
スタッフのパフォーマンスは自ら考えるようになれば上がる。ただ、今でも難しいのがコミュニケーションだという。「人間なので個別に価値観って違う。分かってはいても、話すうち、誤解が生じることはある」。この場合、吉村流の対処法は「1対1で話すこと」だという。そして本音をいかに引き出すか。
自分より若く、年の離れたスタッフでも「こいつのことを真剣に知りたい」と思えば、世代ギャップは大した問題にならない。「店の仕事はチームでやるもの。多くのスタッフとゴールを達成した時に共有できることは、店長ならではの喜び」という。
吉村さんの今に至るまで
1996年 2期目の新卒採用として入社
販売員としてキャリアをスタート
2003年 ユナイテッドアローズ渋谷明治通り店で店長に
以降、立川店、新宿店で勤務
2007年 本社勤務、人材教育、エリアマネージャーを経験
2008年 再び店長としてビューティ&ユース池袋店へ
2012年 東京スカイツリータウン・ソラマチ店へ異動
現在に至る