専門店向けレディスアパレルは6月から、コロナ禍で中止や縮小していた展示会が通常通りに戻りつつある。この間、メーカーはオンライン展示会やカタログ配布、インスタライブなど、試行錯誤しながらも新しい展示会や商品アピールの取り組みが見られた。成果も見られるが、メーカーも小売りも春夏物商戦や秋冬物受注が思うようにできず、「先行きが見通せない」やこれを機に廃業を決める専門店も出てきているなど、楽観視できる状況ではない。臨時休業による店頭在庫や売り上げの回収減など、資金繰りへの影響は大きい。コロナ禍を機に、メーカーや専門店が変わろうとしている。
(東京編集部レディスアパレル担当=古川伸広)
模索する展示会
多くのメーカーが4、5月の展示会を中止または縮小した。取引先の営業中止や時間短縮、外出自粛による客数減などもあり、前年のような受注は出来ていない。だが、新たにカタログやスワッチ配布による受注、インスタグラムなどSNS、オンラインを活用した展示会形式への取り組みが始まっている。ファスサンファールは主力ブランド「ベアトリス」などで、5月に初めてインスタグラムと通常の展示会を並行して実施、来場者は都内と近郊に絞り込んだ完全予約制だったが、受注の減少を抑えた。アイランドユニヴァースは3月展から、リモート展示会を本格導入して成果を上げている。
合同展でもアッシュ・ぺー・フランスが9月3~5日の「ルームス41」で、OMO(オンラインとオフラインの融合)サービス事業を始める。リアルの合同展に参加する出展者向けで、会期を挟んで3カ月間、受発注システム付きのオンライン展示会を開く。福岡の合同展も9月、オンラインを融合させた展示会を検討している。
東京の専門店など都市からの展示会来場は、景気減退傾向から出張経費削減などで減少し、メーカーは自ら地方に出向く傾向が強まっていた。今回のオンラインの活用などは、わざわざ東京や福岡などに行かなくても発注できるシステム構築で、専門店にとってメリットがあり、移動などの密集を避けることもできる。一方で、メーカーは画像や動画、その後のフォローなどこれまでと違った対応が求められている。
一方だけの得では
「足を運んで商品の風合いやパターンを確認するのがベストだが、オンラインで追加も含め発注しても問題がなかった」(イシカワラボ)など、好反応の専門店もある。一方、6月の東京のデザイナーブランド展示会では「デジタル対応を広めなくては」と構えていたが、実際は従来のアポイント制による来場が多かったという。店頭が厳しい状況もあるが、ある専門店向けメーカーはカタログ配布による受注は少なかったと、一概にオンライン活用が求められているわけではない。
オンラインなどの新たな展示会の対応はしながらも、改めてメーカーが危惧しているのは専門店との関係性や取引先の確保だ。コロナ禍は想定外の出来事だが、受注のキャンセルに加え、「商品が返ってきたり、値引きの要請」があり、売り上げの着地が読めない。返品などは今に始まったことではないが、互いに猶予し合う信頼関係が大事になる。また、「市場が大きく広がる要素が乏しい」と、取引先の廃業は大きな問題だ。関係が築ける取引先に絞ったり、全国での展示会開催より会場コストなども下がるなどで、以前の個別ルートの営業を検討するメーカーもある。また、変わる季節感に合わせた展示会開催や時期そのものを検討すべきとの企業もでてきている。
専門店もメーカーとの信頼関係構築は重要と考えている。繊研新聞が行ったコロナ禍後の対策アンケートでは、「ブランド数を減らす」「オリジナル商品の強化」などが上位を占めた。オンライン販売強化や独自性を打ち出すには、信頼できるメーカーとの関係を深め、ブランドの背景なども含め消費者にアピールしていく必要があるからだ。これは消費者が納得できる商品を作るメーカーへの課題でもある。コロナ禍の時、「メーカーからの連絡ややり取りがなかった」という専門店も。客の購買意欲を刺激することが、メーカーと専門店の双方に求められている。一方だけが「得をする」ことではファッション業界は活性化しない。今後を考える機会となったコロナ禍で、今一度信頼関係の構築に期待したい。
古川伸広=東京編集部レディスアパレル担当
(繊研新聞本紙20年7月6日付)