ザラはなぜ強いのか インディテックスの現場に迫る①

2017/07/29 05:00 更新


《連載 ザラはなぜ強いのか インディテックスの現場に迫る①》物流 全商品をスペインで一元管理 世界の7000店へ週2回配送

 「ザラ」をはじめとして、世界93カ国・地域に7292の店舗を持つインディテックス。2兆8000億円を超える売上高はH&Mとしばしば比較され、ファーストリテイリングが売り上げで並ぶことを目指すと公言する。まさに、グローバル大手小売りのトップ企業だ。天候不順などでライバルが苦戦を強いられた昨年も、既存店ベースで増収を維持するなど好業績が続く。「世界中の店のお客様の声が商売の方向を決める」という同社が、物流、生産、企画、店頭、それぞれの現場で何をしているのか。強さの理由を探る。

(柏木均之)

 マドリード郊外のメコにあるインディテックスの物流センターは、延べ床面積13万6000平方メートル。およそサッカー場19面分の広さを誇る施設は、ザラ向けでは最大規模の物流拠点の一つだ。1日に多い時で100万点の商品がセンターに届き、100万点が各市場に向けて出荷されるという。

スペイン国内の物流拠点に集まった商品は全世界の各店舗の発注を個別に仕分け、配送の準備を整える(メコの物流センター)


◆商品は店が発注

 ザラで09年にICタグ導入を開始、16年にほぼ完了した。物流センターでは入荷した時点で1品ごとのデータが入力され、各店配送までの流れの大部分が自動化された。商品情報の確認は入荷後と出荷前の2回だけ。メコの責任者は「デリバリーまでの速度はあまり変わらない。むしろ店頭に送る商品を仕分けし、送るまでの作業の精度が上がったことが大きい」と話す。

 同社の物流機能は全てスペイン国内にある10の物流拠点に集中している。メコを含め、このうち四つが主力業態であるザラの商品の物流をつかさどる。インディテックスの年間販売商品量は11億点を優に超えるが、世界中で生産された商品は、産地を問わず、ほぼ全量、まずこれら物流拠点に集められる。

 生産国から直接各市場に商品を届けるのではなく、いったんスペインの物流拠点に商品を集めるのは、店頭に商品を供給するまでのインディテックス独自の仕組みに理由がある。店でどんな商品が必要か判断するのは、世界中に点在する店舗であり、店頭に供給する商品の企画が本社主導で決まることはない。店は本社に対して日々の商売に必要な商品とその量もそれぞれに決め、発注する。

 世界中の店舗にはそれぞれデータ端末があり、そこから日々の売り上げを本社に送り、同時に翌日以降、必要な商品を必要な量、発注する仕組みになっている。発注を受けた本社は、最短1時間で適正な発注量であるか判断すると、各物流センターへ商品供給を指示する。

 各物流拠点は、週6日24時間3シフトで稼働し、各店からの発注に応じた商品配送の手配は8時間で終える。個別の店舗の発注に応じてアソートし、梱包(こんぽう)された商品は、欧州域内ならトラックを使い、36時間以内で届き、航空便を使う欧州域外でも48時間以内には店頭に到着する。

成田空港に向かう商品。梱包は日本各地の個別の店ごとに分かれている

◆適時供給の精度

 グローバル大手のファッション小売りが他社に抜きん出て成長するのに必要な条件の一つに、商品を適時供給する仕組みの精度がある。店頭で欠品を防ぎ、品揃えの鮮度を常時演出するため、インディテックスの場合、世界中の店舗に週2回、必ず新商品が届くようにしている。

 この頻度と速度を実現するには企画、生産、物流の仕組みが円滑に機能することが前提となる。本社が売れ筋や見込み販売量を判断して個別の店舗に押し付けることなく、全世界で7000を超える店が自店の売れ行きと利用客の好みに応じて、商品の種類や仕入れ量を個店で判断させるようにもしている。

 言い換えれば、客との接点である店の要望を元に、企画も生産も物流も機能する仕組みがインディテックスの強みの一つと言える。実はこの強みは、1963年に縫製工場として創業した同社が、半世紀以上をかけて、作る側と売る側の求めるもののギャップを埋めようと試行錯誤し続けた結果、形成されてきたものだ。 





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