【知・トレンド】《お答えします!》メンズトレンドでピッティ・ウオモの影響が大きい理由は? ハイファッション市場の顧客はクラシックなテーラードが主流 ハンドメイド
メンズファッションのトレンドを語る際に、フィレンツェの見本市、ピッティ・イマージネ・ウオモの影響が大きいと言われます。パリをはじめとするデザイナーコレクションとの関係性は、どのように見れば良いのでしょうか?
小笠原拓郎編集委員がお答えします。
■メンズとレディスのそれぞれの市場において、デザイナーコレクションのブランドの位置づけは大きく異なります。
レディスの場合、ハイファッション市場のトップを占めるのが、デザイナーコレクションのブランドです。パリ・コレクションを筆頭にしたデザイナーの服がハイファッション市場で最も大きな影響力を持っています。デザイナーブランドの中には、ラグジュアリーのカテゴリーとその下の価格帯のコンテンポラリーと呼ばれるカテゴリーがあります。これらデザイナーブランドとともに、ファクトリーブランドが補完するような形で、ハイファッションの売り場を構成しています。
メンズの場合、ハイファッション市場のトップのシェアを占めるのは、クラシックなテーラードスタイルを背景にした高級ブランドです。ロンドンのサビルローに代表されるビスポークのテーラーリングを別にすれば、イタリアの「ブリオーニ」や「アットリーニ」「キートン」などの、ハンドメイドの技術を入れた既製服のテーラードが市場のトップとなります。パリやミラノでコレクションを発表するデザイナーブランドもハイファッション市場の一角を占めますが、メンズのハイファッション市場の顧客は仕事での着用機会を考えてか、レディス市場よりもコンサバティブな服を選びがちです。このため、イタリアに代表されるクラシックなテーラードスタイルをベースにしたブランドに注目が集まります。
■トレンドが大きく変化し遊びの要素のあるデザイナーブランドよりも、トレンドが少しずつ変化していくクラシックなハイブランドがメンズのハイファッション市場のメインとなっています。そうしたブランドが最も多く集まるのがフィレンツェのピッティ・イマージネ・ウオモ展というわけです。先に挙げたブリオーニやアットリーニは現在、出展していませんが、キートングループのほか、イタリアを中心にしたハンドメイドのテーラーリングを軸にするファクトリーブランドが多く出展しています。また、テーラーリングだけでなく、シャツやニット、トラウザーなどのアイテムごとの専業メーカーが多数出展しており、クラシックなスタイルを軸にアイテムごとのトレンドの変化も見ることができます。
もちろん、何年かに一度、時代を大きく変えていくデザインを作り出すのは、トップデザイナーのコレクションです。なので、コレクションブランドの動向も追い続けなければいけません。しかし、シーズンごとに少しずつ変化していくクラシックなテーラードスタイルの市場も、マーケットのリアルな変化をつかむ上では重要です。ですから、メンズの市場を見る上で、デザイナーコレクションとピッティの動向の両面を見ていく必要があります。トップトレンドの流れが、数シーズン経って、どこまでクラシックに降りてきたのか。経験豊富なバイヤーはそんな分析をしています。
時代を変えるデザイン
例えば、80年代のジョルジオ・アルマーニは、それまでの鎧(よろい)のようにがっちりしたテーラードスタイルをソフトコンシャスに作り変え、これ以降、メンズ市場にソフトコンシャスのテーラーリングが一大トレンドとなった。90年代後半に登場したエディ・スリマンは「サンローラン」「ディオール・オム」で、細身のシルエットのマスキュリンとフェミニンが交錯するようなラインを見せた。スリマン以降のメンズトレンドは、細身のシャープなラインへと変化していった。