服飾雑貨OEM(相手先ブランドによる生産)のケージェイ(東京)は3月、バッグをアップサイクルする次世代型工房「人形町BASE」を開設した。今まで廃棄してきたサンプルや不良品、余剰在庫などを自社でリデザイン・リメイクして一点物としてよみがえらせ、取引先の店頭で販売するサステイナブル(持続可能)な取り組みを、今夏から始動する。
循環する仕組みへ
コロナ禍によってバッグ生産の小ロット化が加速する中、同社でも1年半前にクロコダイルの革製品を作っていた若手職人が入社したこともあり、自社での小ロット対応を想定し、東京・人形町にあるオフィスのショールームを工房に変更した。加えて、「以前からちょっとした傷などで捨てざるを得なかった〝B品〟のバッグをデザインと物作りの力で再生したい」との思いから今回の取り組みがスタートした。
これまではOEM先のために作成するファースト・セカンドサンプルはもちろん、量産化しても生産や物流の過程で発生した不良品は返品され廃棄処分となってきた。今回のアップサイクルの取り組みは、これらを自社で再度企画し直し、自社工房でリメイクするなど新たに付加価値を加え、納品して店頭で販売してもらうことで、モノが循環する仕組みの確立を目指す。
こうしたサステイナブルな取り組みに賛同してもらったのがパルのバッグブランド「イアパピオネ」。約30店のうち5店からトライアルで6月に販売を開始する。夏にはサマンサタバサジャパンリミテッドの「サマンサタバサ・プチチョイス」でも取り組みをスタートする予定だ。取り組み先と人形町BASEとのダブルネームとなる。
取り組みが早期に実現した背景には、サステイナブルへの社会的な意識の高まりだけでなく、普段から小ロット生産で良質な物作りを追求してきたケージェイとの信頼関係の深さもあったのだろう。
工房併設店舗を計画
アップサイクルする商品は革のバッグが中心だ。例えば、①元の形がツーウェーハンドルの四角いトートバッグを編み込みハンドルのショートに変え、間口をゴム入りのシュリンクタイプにして底も丸くした②ショルダー付き縦型トートを本体の前胴部分をカットして横型ショルダーバッグに一新③横型ショルダーバッグの本体を小さくして柄テープをハンドルに付け、B品のストラップを付け替えてミニショルダーに変身させたりする。
また、裏地が汚れてしまったバッグを分解して裏地を洗って違うデザインにアレンジする。使わなくなった革のスワッチでチャームを作ったり、パーツの組み合わせを変えたりと、OEM企業ならではの素材やパーツの豊富なバリエーションが生かせる。
自社工房での作業は返品されたバッグの分解、再企画、組み立てという工程でアップサイクル品としてよみがえる。工房には平ミシンと腕ミシン、革すき機、裁断台、道具や素材、パーツなど最低限の設備があれば、基本的な物は作れるという。全工程は3、4人で手掛けている。自社で内製化することで企画と職人のコミュニケーションもスムーズで完成度も高い。現状では、アップサイクル品は月100個の納品が目標。返品の量によっては少ないことも想定される。
3月にスタートしたばかりの人形町BASEだが、来年には自社オフィス内から独立し、外部出店する計画だ。場所はオフィスを構えて15年ほど経つ人形町周辺の中央区内を想定している。「工房併設型の複合店舗を考えており、クラフトのワークショップや修理、リメイクなどを通じて一般消費者とつながれる場にしたい」と三谷博己社長。その時には自社ブランドを立ち上げ、販売する拠点にしたいという。カフェも併設するなどサステイナブルなコミュニティーの拠点としての広がりも期待する。
これを機に、自社のビジョンも見直す。「OEMという中間業者から作り手へシフトする」と強調する。そのため、自社工房だけでなく、4年前から事業所を開設していたバングラデシュに今秋以降に自社工場を設立する計画もある。「人形町BASEの取り組みをフィードバックし、本業のOEMを新たなカタチに進化させたい」と前向きだ。
(繊研新聞本紙21年5月17日付)