【ファッションとサステイナビリティー】三菱ケミカルアドバンストマテリアルズ本部繊維事業部 山中康司氏 テキスタイルの環境負荷を「見える化」

2023/03/30 05:29 更新


山中康司氏

(事業管理グループ生産管理チームリーダー兼技術グループ技術統括チーム)

 三菱ケミカルが世界で唯一生産するトリアセテート繊維「ソアロン」。主原料に木材パルプを使う植物由来の美しさに、イージーケアをはじめとした化学繊維の長所を併せ持つのが特徴で、婦人服分野を中心に高い評価を受けてきた。近年は、環境対応でも注目されている。19年に立ち上げた「ソアグリーンプログラム」は、国内ファッションテキスタイルではいち早く、環境負荷度の可視化に挑戦。サプライチェーンを形成する国内産地のパートナー工場と連携を強め、フェーズ3への取り組みを進めている。

 サステイナビリティー(持続可能性)を担保するものとして、第三者機関による認証が求められるようになり、ソアロンでも原糸からテキスタイルに至るまで取得してきましたが、それも浸透し、必要条件であっても、優位性は語れなくなると思っていました。

 主体性を持ち、他社に先んじて我々ができることに取り組もうと始めたのが、ソアグリーンプログラムです。テキスタイル品番毎に環境負荷度を独自に設定した基準で採点し、クラス分けするところから始めました。これをフェーズ1としてリリースした直後から、フェーズ2の設計に着手。具体的な数値と共通の物差しが必要という考えからです。最近、製品の環境負荷を炭素負荷で提示するアパレルやシューズメーカーが出てきましたが、いずれそういう時代になると想定していました。

 また、単一の商品をLCA(ライフサイクルアセスメント)のような切り口で評価することは簡単ですが、ファッションテキスタイルは材料の構成も仕様もたどる道筋もばらばらで、非常に難易度が高い。早めに備えなければ、アパレルからリクエストを受けた時にすぐ応えられないというのも大きなモチベーションになりました。

 フェーズ2では、各品番の染色仕上げまでの製造プロセス間をGHG(温室効果ガス)排出量を物差しに比較し、工程負荷レベルを見える化しました。各工程のエネルギー使用量をモニタリングし、それを基に近似値的にシミュレーション可能なアルゴリズムを設定しています。設計書の内容をマニュアルに沿って入力すれば、自動で算定されることが一番のポイントです。

 ただ、これはあくまで想定値。フェーズ3では実績値をつかむべく、各工程を担う50社のパートナー企業に調査中です。電力系、熱系、動力系、廃棄物評価といった項目別に各企業の1年間のGHG排出総量を把握し、ソアロンを使う素材の生産量から平均を算出。フェーズ2の算定値と突き合せることで、その精度を検証するとともに、23年度中にはフェーズ2のグレードアップにもつなげたいと思っています。

 調査は昨年10月から行い、過半数が集まりました。パソコンでの入力に不慣れだったり、零細企業は産業廃棄物のマニフェストがなかったりと手間取ることもあるようで、担当者がキャッチボールをしながら進めています。予定より時間はかかっていますが、我々が掲げる理想も含めて理解をしていただき、協力を得られています。この先、企業規模を問わず、環境負荷の管理が求められると考えられるなか、このキャッチボールを通じて啓発できていることも、一つの良い側面だと思います。

 環境負荷の低減へプロセスを見直すことは、生産性の向上にもつながります。例えば、同じエネルギーソースを使いながら条件を変えた物が複数ある場合、物のクオリティーを変えずに集約できれば、ロットがまとまって生産効率が上がるし、環境負荷も減る。ソアグリーンプログラムの分析は、高齢化が進む産地の課題解決につながる一つのヒントにもなると思います。

ファッションとサステイナビリティー トップへ

(繊研新聞本紙23年3月30日付)

関連キーワードサステイナブル



この記事に関連する記事