コロナ下で好調さが際立っていたキャンプ用品販売の勢いに、陰りが見え始めた。しかし、消費者の自然指向の強まりはコロナ禍以前から起きており、アウトドア需要は底堅い。業界は価格競争に走らず、ユーザーに対してキャンプ機会の提供と、「ステップアップ」へのサポートが求められている。
【関連記事】【記者の目】合繊メーカーで火災や品質問題相次ぐ コスト優先からの転換を
消費減速は一時的
日本オートキャンプ協会によると、21年のキャンプ参加人口は750万人となり、コロナ禍により大幅に下がった20年の610万人から23%増と大きく回復した。また、登山用品・ウェア・シューズを含まないキャンプ用品の市場規模は推定で998億円となり、過去最高を更新。96年実績を四半世紀ぶりに超えた20年実績の876億円を11.4%上回った。
ただ22年に入り、その勢いは急減速する。多くのアウトドア小売店・メーカーが、キャンプ用品消費の冷え込みを指摘する声が目立つ。特にテントの売れ行きが鈍くなっており、そのために単価を稼ぎづらくなっているという。こうした状況から、一部で「キャンプ人気が終わったのでは」と危惧されている。
しかし記者は、今回の需要の冷え込みは一時的なものだと考える。別表の通り、消費者の自然指向の強まりを背景にキャンプ参加人口はコロナ禍前の10年代前半から緩やかに増加基調にあった。そうした長期トレンドの中で、この2年は「コロナ特需」と呼べるような過熱消費が現れた。つまり、足元の消費減速は急上昇に対する反動と見ることができる。事実、今年に入って減収が続くメーカーは、コロナ禍前の19年実績を上回っているところが大半であり、キャンプ場も引き続きにぎわっている。
体験できる場を
こうした流れを踏まえると、マーケットの健全な成長に向け、以下の点が課題になると考える。一つは、価格競争に走らないことだ。この間、市場に参入する異業種が増え、キャンプ用品は供給過多になっている。そのため、店舗によっては「セールの有無や期間によって既存店の売り上げが大きく左右されるようになってきた」(大手量販店)という。
しかし、前述したようにアウトドア需要は底堅く、過熱消費の反動が一巡すれば、再び買い替え、買い足し需要が現れるはず。だからこそ、その前にブランド価値を毀損(きそん)することは避けたい。多少の減収にうろたえることなく、プロパー販売を維持し、商品と売り場の同質化を防ぐ手立てを講じるべきだ。
二つ目は、キャンプ機会の提供である。関東エリアを中心に、キャンプ場の供給不足が続いている。予約の取りにくさから、キャンプそのものに嫌気が差すユーザーが増えかねない。メーカーや小売りは、直営、提携を問わず、フィールドの増加や施設の円滑な運営をサポートする施策に取り組むべきだろう。
三つ目がキャンパーのステップアップを支援することだ。キャンプ経験を重ねると、ギアに凝ったり、登山や釣りとからめたりと、そのスタイルを進化させるキャンパーは多い。特にコロナ禍以前にファミリーキャンプを始めた人の中には、子育てが一段落し、夫婦や父親だけでキャンプを楽しむ層が一定数、出始めている。ところが売り場が従来通り、初心者のファミリーを対象にした提案ばかりだと、有望客を取り逃がしかねない。経験を積み、ニーズが多様化するキャンパーのステップアップをサポートできるような商品と売り場の開発を急ぐ必要がある。
キャンプ業界は90年代前半に、一度ブームを経験した。当時は「メーカーは作りっぱなし、小売店は売りっぱなし、キャンパーはやりっぱなしで、すぐにブームは去った」(大手メーカー)と言われる。今回は同じ轍(てつ)を踏まぬよう、持続的成長に向け、業界全体で創意工夫すべきだ。
杉江潤平=本社編集部スポーツ・アウトドア担当
(繊研新聞本紙22年8月1日付)