【記者の目】コスト高に揺れる量販店向けアパレル 店頭価格のアップが不可欠

2022/05/05 06:28 更新


 量販店向けレディスアパレルメーカーが揺れている。コロナ禍による衣料品不振の加速に、原材料、物流費の高騰、さらに円安の三重苦が加わり、かつてないほど状況は厳しい。「このままでは続かない」。アパレルがどうすれば生き残れるのか考えた。

相次ぐ下方修正

 厳しい状況は大手レディスアパレルのタキヒヨーとクロスプラスの決算に表れる。

 昨年12月17日、タキヒヨーが22年2月期の通期業績予想修正を発表した。連結売上高は前回予想比14億5000万円増の564億5000万円だが、営業損益は前回予想の2億2000万円の黒字から、18億1000万円の赤字へと下方修正した。

 今年1月14日にはクロスプラスが22年1月期の通期連結業績予想修正を発表。昨年9月3日に発表した業績予想修正をさらに下方修正した。連結売上高は10億円減の590億円、営業損益は6億円の黒字予想から、16億円の赤字予想となった。

 タキヒヨーとクロスプラスの両社の修正理由で共通していたのが「コスト高」。タキヒヨーは「原料価格上昇、円安進行、海上運賃値上げ、ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国のロックダウン(都市封鎖)に伴う中国への生産シフトで粗利益が低下」とした。クロスプラスも「原材料費の高騰、海上運賃の値上げ、生産の中国シフト」を減益要因に挙げた。

 例えば、この間特に指摘される海上運賃の上昇。これは世界的なコロナ禍が影響している。コンテナ生産工場の稼働率が低下する一方、新型コロナにより消費財の需要が急増。港湾作業員が不足していることもあり、世界各国でコンテナ滞留などのボトルネックが生じ、深刻なコンテナ不足に陥ったことが原因と見られる。

 クロスプラスの山本大寛社長は「海上運賃は2、3倍まで上がっている」と強調する。縫製企業大手の小島衣料社長も「海上輸送、航空輸送ともに、従来の4倍から5倍に高騰している」と実情を語る。

 国内物流費も増加している。日本ロジスティクスシステム協会が昨年12月24日に公表した、「21年度物流コスト調査結果」(速報値)の売上高物流コスト比率(各企業の物流コスト金額を売上高で除した値)は5.7%(全業種平均)。過去20年間の調査で最高値となった。

 為替では21年1月に1ドル=103円台前後だったのが、今年1月に116円台の円安を記録した。

クロスプラスは〝推し活〟グッズ「推部屋プラス」の販売を昨年からスタートするなど、非アパレル分野を強化している

掛け声で終わらすな

 こういった状況もあり、アパレルがこぞって販売強化してきた大手専門店チェーンとのビジネスは、「やればやるほど赤字が膨らむ」とレディスアパレルメーカーの社員。「『もう赤字の仕事は受けないように。1型1型利益を精査して』と上から言われている。こんな時代なのに、ビジネスは全くサステイナブル(持続可能な)じゃない」と話す。

 異常とも言えるコストアップを適正水準で店頭価格に転嫁することは、今の環境を考慮すると避けて通れない道だ。中でも販売期間が長く、ベースプライスが低い夏物の値上げに踏み切る時期に来ているのではないだろうか。

 例えば、昨年の取材でサンラリーの栗田裕久社長が「小売価格設定が旧態依然としている」と指摘。1900円、2900円ではなく、せめて500円きざみで価格設定する必要性を強調した。実際、しまむらが22~23年秋冬物の価格帯を引き上げると発表するなど、動きは出始めている。

 しかし、アパレルに聞くと「しまむらの現場は今でも単価アップ、中間プライス設定のいずれにも消極的」。消費者のシビアな目を知るからこそ慎重になるのは分かるが、値上げが掛け声に終わらぬよう、サプライヤー側ももっと声を上げていかねばなるまい。このままでは商品の安定供給に影響が出かねない。

 今年になってから、食品業界や公共料金など様々な物の値上げが相次いでいる。消費者が値上げに関心を持っている今こそ、丁寧に説明したうえで、企業と消費者の応分負担が必要だ。

 加えて、アパレルメーカーは、従来のアパレル分野で付加価値の高い商品開発を進めながら、非アパレル分野の推進も欠かせない。例えば、クロスプラスが21年2月から開始した「新規商品検討会」はアパレル製品だけにとらわれず、社員が持つアイデアを具体化し、世の中に出していく取り組みだ。コロナ禍で変化した消費者の価値観をとらえた商材開発が今後必要だろう。

森田雄也=名古屋編集部

(繊研新聞本紙22年2月28日付)

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