大手百貨店でOMO(オンラインとオフラインの融合)戦略が本格化している。コロナ禍で、店頭での対面接客や集客イベントが制限されたことで、デジタル化を通して顧客との接点を深める。商品選びから販売員との1対1のコミュニケーション、決済までの店頭での販売行為の全てをオンラインに拡張する。一方で、ビジネスモデルの中心は店舗であり、売り上げの落ち込みをECで補うには程遠い状況に変わりない。店舗の構造改革なしに、今の苦境を脱することはできない。
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オン、オフで複数選択
オンラインサイトやアプリで情報収集、検討し、商品購入やサービスを受る買い方が定着し、EC、アプリ、店頭を使い分ける消費行動が当たり前となった。顧客の買い方、従業員の働き方が大きく変わる中で、OMOを通じて店頭と同様の買い物体験を提供する狙いだ。
阪急阪神百貨店は、20年10月から店頭の商品を来店せずに購入できるデジタル戦略を本格スタートさせた。同年5月にテストマーケティングを開始し、店頭で扱っている商品をホームページ上で掲載するウェブカタログを通じて、LINEやZoomを使ったリアルタイムの接客から商品の注文、決済までをオンライン上でできるようにした。
三越伊勢丹は、20年11月にリモートショッピングアプリの運用を始めた。EC未掲載を含めた店頭全ての商品を購入可能にする。オンラインで接客を受けて買い物するために必要な売り場の選択、チャットによるテキスト会話、動画接客、決済までを一つのアプリで完結する。同様に、大丸松坂屋百貨店は、21年秋に化粧品に特化したOMO戦略をスタートする。
いずれも店頭での接客販売をデジタルに広げたもので、店頭とオンラインを組み合わせた複数の選択肢を提供することで、新しい購買体験につなげる。「若年層の買い上げや商圏の広域化で新規顧客の開拓に結び付いている」(阪急阪神百貨店、三越伊勢丹)という。
デジタル化による顧客IDのひもづけで、購買履歴を的確に把握できることから、店頭での接客サービスの向上に役立てていく考えだ。顧客のニーズの多様化、高度化に対応するには、店頭、ECなどの商品・顧客データの一元化が前提となる。情報の一元管理は遅れていたが、取引先をはじめ、外部システムとの連携を含め、再構築を急ぐ。
EC接点をECで
ECの20年度売上高は三越伊勢丹が前年同期比6割増の310億円を見込み、高島屋が297億円で当初予想を上回る伸びとなり、早期に500億円体制に乗せる。コロナ禍で、歳暮などギフト需要のほか、衣食住のデイリーアイテムも自家需要として伸びている。各社ともサイトを刷新し、掲載商品の拡大、利便性の向上や情報発信に乗り出している。
EC売り上げが急拡大しているとはいえ、百貨店売上高に占める構成は数%に過ぎない。「我々がどんなに伸ばしてもEC比率はせいぜい15~20%程度が限界」(三越伊勢丹)という。ECが店頭を上回る売り上げになるのは現実的でないし、欧米の百貨店の事例を見てもありえない。ECの強化による顧客接点の拡大や利便性の向上は当然、今後も重要課題であることに変わりない。むしろ専業大手ECにない店舗を持つ強みを生かしたデジタルの活用が急務になる。
もっとも、高コスト・低粗利である店舗の構造改革は待ったなしの状況にある。伊勢丹新宿本店は単店で営業利益100億円を稼いでいた高収益店舗だが、約1~2割が赤字あるいは利益が出ない売り場があった。高効率の売り場が補う形で、赤字の売り場を放置している店舗が少なくない。コロナ禍で売り上げをさらに伸ばしていくことが難しくなっており、要員を圧縮して人件費を削減することは収支改善に向けて避けられない課題だ。
そごう・西武は西武渋谷店でショールーミング型のOMOストアを9月に開設する。DtoC(メーカー直販)の30ブランドと協業し、商品全てを専用ECサイトで購入できるようにする。店頭での決済をしないことから、販売員が常駐せず、顧客が自由に商品を試し、スマートフォンで注文できる無人販売も可能となる。
従来のビジネスモデルでは売り上げが減り続ければ、定借化や家主への賃貸区画の一部返上など自営面積を縮小せざるを得ないという収支構造から抜け出せない。面積減少による家賃の低減や要員の削減など損益分岐点の引き下げには限界がある。自前の商売に固執し、百貨店を続けるのであればスペシャリティー化し、顧客の求める先を行く先進性に磨きをかけることが必要だ。不要不急なモノやサービスを提供する百貨店の存在意義が改めて問われている。
松浦治=東京編集部大型店担当
(繊研新聞本紙21年4月19日付)