若手の自由なエネルギー
【パリ=小笠原拓郎、青木規子】16~17年秋冬デザイナーコレクションは、いよいよパリへと舞台を移した。ニューヨークとロンドンで広がったダークロマンティックの流れやミラノで広がったコラージュといったトレンドが、パリでどうなっていくのか注目される。初日は、インディペンデントな立場でビジネスをしている若手デザイナーが中心。その自由なクリエーションへのエネルギーは、秋冬も旋風を巻き起こしそうだ。
アーケードで見せるストリートクチュール/コシェ
コシェは前シーズンに続き、公共スペースを使って全員立ち見のショーをした。今回選んだ会場は、パリ10区にあるインド人街にあるアーケード。ショーの始まりを待つ間、バイヤーやジャーナリストに交じって、アーケードとそのかいわいの住人とおぼしき家族たちが楽しんでいる。
そこに登場するのは、ラグジュアリーなビジュー刺繍やフェザー刺繍で彩ったストリートスタイルのモデルたちだ。前回同様、プロのモデルもいればストリートキャスティングしたと思われる小柄な女の子やいかついタトゥーの女性もいる。
それぞれの女性の持つ個性がコシェのストリートクチュールを推し進める。フューチャーリスティックな抽象柄のプリントトップ、ビジューテープを切り替えたドレス、表にたっぷりの刺繍をのせたファーライニングのコート。そんなラグジュアリーアイテムとミックスするのは、ブリーチしたデニムパンツやジャージーパンツ。
ハイ&ローのミックスにも思えるが、コシェの場合、Tシャツも複雑に布が接ぎ合わせてあるので、ローに見えてもお値打ちとは限らない。今シーズンも、テクニックがラグジュアリーで、メンタリティーがストリートな世界。それを市井の人たちと楽しんでしまう。そんなコシェの人気はますます高まりそうだ。
断続的に音楽が流れ、止まり、また違う音楽が始まり、数秒で止まる。いらいらさせる音の使い方でショーを見せたのはジャックムス。その音に合わせるかのように、解体され再構築されたデコンストラクトスタイルが登場する。ビッグショルダーのジャケットフロントに丸いモチーフをつけたスエードミニスカート、ステッチワークを利かせたロングスリーブシャツなど、部分的に拡大されたディテールが特徴となる。
そこにコートの上からダウンのパーツをアシンメトリーにかぶせたり、ノースリーブドレスのフロントにラメドレスを重ねたり。パンツスーツは斜めにパーツが解体され、生地の違う二つのパーツがリボンで合体されて一つのスーツとなる。今シーズンもジャックムスのプリミティブなエネルギーを背景にしたコレクション。
アンリアレイジはこれまでのテクノロジーをベースにしたコレクションから一歩引いて、よりリアルなラインを見せた。ショー会場には四角い蚊帳のような布がつるされている。登場するのは白、黒、グレーをベースにしたモザイクのようなスクエア柄を配したコートやドレス。デジタルモザイクを思わせるモノクロのドレスは、身頃がジグザグに切り替えられ、ヘムラインもジグザグにカットされる。杢グレーのケーブルニットやツイードタッチのコート、セットアップ。
ドレスやコートの肩はモザイク柄のように四角い形になっている。クライマックスはテレビの砂嵐のようなグレーのドレスやコートのシリーズ。それが蚊帳のような布に近づくと、ハレーションを起こしたように円や四角、ダイヤ、ハウンドツース、花といった柄を浮かび上がらせる。ここ数シーズンはテクノロジーを見せたコレクション、今シーズンはテクノロジーを使って服を見せたコレクション。そんな風に感じた。テーマは「ノイズ」。
(写真=大原広和)