スノーピークがフィールドワークツアー開催

2018/07/16 07:00 更新


 キャンプ用品メーカーのスノーピークが、地方にある優れた製造技法や文化、豊かな自然に光を当て、広く伝える試みを始めた。今4月に地方産地の技術を活用し、開発した新アパレルライン「ローカルウェア」を発売。これに関連し、着目した土地を消費者と巡り、その文化や暮らし、仕事などを体感するフィールドワーク「ローカルウェアツーリズム」もスタートした。5月26~27日には、その第1弾ツアーを敢行。同プロジェクトを発案するきっかけとなった佐渡島を、約10組の参加者と訪ねた。

(杉江潤平)

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第二の故郷に

 舟屋での佐渡番茶のウェルカムドリンク、佐渡文化の象徴でもある能舞台がある神社境内でのテント設営、佐渡の食材をふんだんに使ったバーベキュー、たき火にあたりながら佐渡おけさの鑑賞、海を見渡せる棚田での田植え体験…。

 ローカルウェアツーリズムは、いわゆる地方の名所名跡を観光するものではない。土地に根付く労働や文化、人々と触れ合い、自然の魅力も体感することで、その土地が参加者にとって、「第二の故郷に」なることを目指している。佐渡島企画では、佐渡ならではの文化や食、農作業を満喫できるプランとなった(13歳以上2万4800円、7~12歳1万6800円)。

農家の人から植え方を教わりながら、約1000平方メートルの田んぼに苗を植えていった。佐渡は日本初の世界農業遺産となった地でもある

 このツアーがユニークなのは、地元の人が関わるプログラムで、それぞれに直面している問題も語られることだ。田植え体験を指導した大石惣一郎さんは「この棚田(岩首昇竜棚田)は400年も前に作られたが、今も農地として活用されている貴重なもの。しかし、後継者はいない。また、米作りだけでは生活できないので、年金をつぎ込んで棚田を維持している状況だ」と参加者に明かした。

バーベキューでは、佐渡で獲れたサザエやイカ、アジなどが振舞われた

 京都から来た周防貴之さん・紗弥香さん夫妻は、「普段の旅行とは深さが違った。田植えなどの体験を通じて少しでも当事者になれた。佐渡との距離が近くなった」と話す。山﨑将司さん・坂本郁さんペアも、「ツアー中、『佐渡で自分たちが暮らすとしたらどうなるか』とリアルに何度も考えた。そういう思考になる企画だった」と満足した様子だった。同社では7月から、ローカルウェア第1弾の製造に関わった染色工場と機屋の2工場を訪問する工場見学ツアーも実施する。また、今回植えた苗の稲刈りイベントも予定している。

絶景での田植え体験に参加者のテンションは最高潮に
絶景での田植え体験に参加者のテンションは最高潮に
田植え後は地元の山菜をふんだんに使った食事に舌鼓
初日夜には佐渡の民謡を鑑賞した

着る・働くをつなぐ

スノーピークアパレルデザイナーの山井梨沙さん

 ローカルウェアプロジェクトを始めたのは、私自身が技術消滅の場面に偶然居合わせたことがきっかけです。今から2年ほど前、元々興味のあった佐渡の裂織りにフォーカスした物作りをしようと思い、島で唯一の織り手さんの工房を訪ねることにしました。織っている様子を見せてもらう約束を入れ、その女性も下準備をして待ってくれることになっていたのですが、行ってみると、織り手さんが暗い表情を浮かべながら、「やっぱり経糸をかけることができなかった」と打ち明けられたのです。その方はご高齢で、裂織りを継続するかの瀬戸際で悩んでいたとか。ショックでした。

 そして、裂織りと同じように、気付かないうちに消滅しているものが日本中にたくさんあるのではないかと思いました。実際、普段弊社で付き合いのある染工所や機屋、縫製工場でも後継者はいません。「人手が足りない」「キャパシティーがない」といったこともよく聞きます。このまま何もアクションを起さないと、物作りができなくなると思い、ローカルウェアを作ることにしました。

 ローカルウェアは、そこで働く人にこそ着てもらいたいと思っています。産地消滅の危機は、アパレル産業だけではなくどの1次産業も一緒。地元で作られた服を、地元出身者や移住した若者が着て、カッコ良く働く。そういう人が、ローカルウェアとツーリズムで増えてほしいと思っています。

山井梨沙さん


服の地産地消へ

 産地支援策は行政を巻き込みながら、あらゆる地域で数多く展開されているが、成功事例は少ない。問題となるのは、小売りルートや消費者との接点作り、継続性などだ。スノーピークの場合は強固な顧客基盤を持っているうえ、直営店で商品を展開できる環境にあることが強み。経営陣に加わるデザイナー自身が地方産地支援への高いモチベーションを持っていることも大きな原動力になっている。服を作り、店で宣伝し、売り、ツアーで消費者の関心を喚起する。ローカルウェアは服の地産地消を目指す取り組みとして注目できる。

★★★

スノーピークが作るローカルウェア第1弾

 地方産地の風土や技術を生かす、「スノーピークアパレル」の新ライン。第1弾はスノーピークが本拠を構える新潟に注目。作務衣やパッチ、はんてんなどをベースに「昔」と「現代」の2カテゴリーに分け、栃尾の染色技術を活用したウェアを作った。同ラインのコンセプトショップとして4月2日にリニューアルしたスノーピーク東急プラザ銀座店では、昔シリーズが外国人客らに人気。店の雰囲気が変わったことで、女性客も増えた。同店の4月売り上げは前年同月比2倍。プロジェクトは、今後もフォーカスエリアを順次広げ、取り組みを継続する。

農村の作業着を元に作ったローカルウェア(モデルは大石さん)

【繊研新聞本紙 2018年05月31日付から】



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