ワコールホールディングス(HD)は11月12日、26年3月期の連結業績予想を下方修正した。売上収益は5月公表時に比べ137億円減の1738億円、事業利益は62億円減の15億円の赤字を見込む。小売業の店舗縮小などが主な要因だが、世界的なレディスインナー市況の低迷に抗しきれていないのが現状だ。来年4月から開始予定だった次期中期計画も来年5月に公表を延期している。
(山田太志)
矢島昌明代表取締役社長執行役員は、中間決算発表の席上、「ワコールが強みとしてきた商品、マーケットの縮小が加速している」と危機感をあらわにする。19年に比べ、日本でのワコール商品の扱い店舗は、百貨店が223から161、量販店が1674から1396、専門店が458から316、「アンフィ」の直営店が82から66へと合計で約500店減少した。「米国も同様。約400店減少し、さらにインナー売り場が上層階へ移転する。1階上に移動すれば10%近い減収となる」と指摘する。
快適ブラの台頭
商品の逆風も吹く。ワコール人間科学研究開発センターをはじめとする知見を生かし、ワイヤブラやガードルなど造形美やサイズへのこだわり、これを支える縫製技術の高さなどが大きな財産だった。だが、近年は快適性を優先するノンワイヤブラや、SMLサイズのブラキャミなどが大きく増えた。また、昨今の物価高の〝選別消費〟で、5000円以上のブラジャーなどへの価格抵抗も強まっている。
決して、手をこまねいていたわけではない。実店舗の縮小に対応し、ECの強化を大きく進めた。日本、欧州をはじめEC事業はおおむね順調に推移し、国内外主要5社のEC比率は今上期に初めて30%を超えた。セルフ計測もできる3Dボディースキャンを組み合わせた「わたしに合うブラ診断」の利用者も、7月からの2カ月半で20万人を超えるなど、新しい消費者との接点も増やしている。
また、新たな販路構築を目指し、コンビニ、ドラッグストア、職域販売などもこれから本格化する。低価格帯には踏み込まないが、ノンワイヤ商品をはじめ、3000円台の「アフォータブルゾーン」の商品も強化中だ。「CW-X」に代表されるコンディショニングウェアも大きな成長軸として拡販していく。
「努力はしているが、既存分野の落ち込みをカバーできていないのが現状」。次期の中計策定を先延ばししたのは、「ビジネスモデルを今一度根本から見直す必要があり、これには一定の時間が必要」と判断したためだ。
外部の経営環境の激変に加え、事業戦略の遅れには、矢島氏が常々言及してきた大企業ゆえのスピード感の欠如も一因にあっただろう。ブランドの集約化、希望退職の募集、貴重な資産のアセットライト化にも踏み込み、社内の危機感は強まってきたはず。評価制度の見直しも始まる。7月から賞与の一定部分を月給に乗せる新たな仕組みがスタート。新卒給与の見直しや新しい評価制度の策定も来年から実行する。
企業価値がカギ
この間、欧州の物流倉庫の火災、想定以上のトランプ関税の影響、精神的支柱でもあった塚本能交名誉会長の療養など、不慮の出来事も続いた。ただ、特筆しておきたいのは、戦後のレディスインナー文化を作り上げてきた歴史に加え、乳がん撲滅(ぼくめつ)を目指すピンクリボン活動をはじめとした同社が果たしてきた社会的な役割は大きい。
目に見える商品、売り場だけでなく、こうした財産を含め、企業としてのブランド価値を改めてアピールできるかがカギとなっている。
